2008 no.10 総力特集・第1章付録
pp.22-29
「わが子ががんになったとき
 家族と医療ができること」


選択肢の広がる、がん医療
がん治療の幅を広げる免疫療法最新事情

本誌で紹介したように、現在、がんのおもな治療法は、
「手術療法」「放射線療法」「抗がん剤療法」の、
いわゆる「がんの3大療法」。
しかし近年、これらの治療法との併用や独自療法として、
「免疫療法」の研究・実践が進んでいる。
選択肢はどこまで広がっているのか、
杉並犬猫病院・副院長の南直秀先生にお話を伺った。

 

PAFE:「免疫療法」は“第4の治療法”と呼ばれていますが、この療法が提案されるのは、どんなケースですか。

南先生:がんの治療法は、細胞診などの病理検査を行って決定します。手術だけで完治する場合もありますし、リンパ腫や白血病などの治療には、抗がん剤が効果的です。鼻腔内の腫瘍など切除が難しいケースや放射線感受性の高い腫瘍では、放射線療法を行います。
 「免疫療法」は「がんに対する免疫力を高めて、がんを攻撃する治療法」で、3大療法を行いつつ、補助的に行う場合が多いですね。また最近では、3大療法では対応が難しい腫瘍も増えてきたのですが、そういった場合に単独で行われることもあります。

PAFE:免疫療法の特徴は、どんな点でしょうか。

南先生:人間と同様に副作用が少なく、免疫療法の種類によっては1回の治療時間が短いため通院の負担が軽く、どうぶつとご家族が自宅で過ごせる時間が、ほかの治療法と比べて多くなることが、最大のメリットです。
 一方、獣医療ではまだ新しい分野で、十分なエビデンスの得られている部分が少ないのが現状です。また、免疫療法を望まれる場合は末期がんに近いケースが多く、期待ほど効果が出ないこともあります。一方で、元気や食欲が出たり毛ヅヤがよくなったりという効果も見られており、身体にやさしい治療法といえるでしょう。
 免疫療法によって、がんがなくなることはあまりありません。しかし、進行を遅らせたり、QOLを改善できたりという点が期待できます。

PAFE:“免疫療法”と聞いても、まだピンと来ない家族も多いのではと思います。治療法の提案や決定は、どんなことに気をつけて行われるのでしょうか。

南先生:免疫療法について全くご存知ない方も多いですが、当院へ来られるご家族の中には、セカンドオピニオンを求めて、あるいは病院のサイトを見て来院される方も多く、比較的免疫療法についての予備知識が豊富という印象がありますね。
 治療方針はじっくり説明し、ご家族と話し合って決めていくことになります。がん治療 では、初期治療がとても大切です。最初から免疫療法を希望されている場合も、そのケースに免疫療法が適しているかどうかをよく検討します。
 また、免疫療法の種類によっては、治療費が高く、時間がかかる場合もあります。そう いったことも含めてご家族とよく相談し、他の治療法を提案することもあります。

PAFE:それでは具体的に、免疫療法にはどんなものがあるのでしょうか。

南先生:基本的に、がん治療のなかで、“免疫系に働きかける方法”はすべて免疫療法と いえます。当院で行っている、おもな免疫療法は次の3つです。

  1. 活性化自己リンパ球療法
  2. 樹状細胞(DC)療法
  3. 自家がんワクチン療法

それぞれを簡潔にご説明すると、

  1. 活性化自己リンパ球療法
    血液からリンパ球を取り出して体外で大量に培養、活性化して再び体内に戻す方法で、投与されるリンパ球には以下のようなものがあります。

    • T細胞
        がん細胞やウイルス感染細胞を殺傷する細胞(キラーT細胞)や、それを補助する細胞(ヘルパーT細胞)として機能する。
    • NK細胞
        T細胞のように攻撃の対象となる異物などをいったん認知する必要がなく、
        生まれつき殺傷力があり、がん細胞やウイルス感染細胞を見つけると単独で攻撃する。



      活性化自己リンパ球療法で投与されるリンパ球のおもなものはこの2種類ですが、増殖の段階でB細胞(病原体を失活させたり、直接攻撃するための目印となったりする抗体をつくる)や、NKT細胞(NK細胞とT細胞の両方の性質を併せ持ち、腫瘍細胞などの増殖を抑えるインターフェロン-γを産生することによって、自然免疫系と獲得免疫系の両方の細胞を活性化させる)も少数含まれているといわれています。

  2. 樹状細胞(DC)がんワクチン療法
      がんを発症した子のがん細胞と樹状細胞(周囲に突起を伸ばした細胞)を体外で融合させ、それを再び体内に戻します。樹状細胞の表面に現れたがんの特徴をリンパ球に読み取らせて、がん細胞だけを攻撃をさせます。その免疫力を身体に記憶させ、持続できる点でワクチンともいえます。

  3. 自家がんワクチン療法
      摘出したがん組織をホルマリンなどで死滅させたあと、がんの抗原(抗体をつくらせるもとになる物質)となる部分と、抗原の免疫性を高める薬品・アジュバントを混合して体に接種します。接種部位で、体内の樹上細胞ががんの抗原部分を取り込み、その特徴をリンパ球に伝えます。樹状細胞がんワクチンを作ることができない子の場合にも、1g程度のがん組織があれば適用可能です。

       これらの方法は手術でがんを切除した後、再発や転移の恐れがある場合などに行われることが多いです。

 また、これらの免疫療法以外にも、当院では、がんの治療に以下のような、さまざまな方法を利用します。

  • 外科手術時に健常な組織に加わるダメージを少なくするための機器
      キューサー(目的とする組織を超音波で破砕、吸引する機械。血管等を傷つけにくい)や、リガシュア(電気で血管をシールする機械で、周囲への熱や電気的な影響が少ない)、超音波メス等を利用。

  • 温熱療法
      がん細胞が正常細胞より熱に弱い性質を利用して、レーザーでがん組織を暖めて、がん細胞のみを殺す療法。他の療法と同時に行うこともある。

 ほかに補助的な方法として、腫瘍の進行を抑える可能性があるサリドマイドや、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)などを用いる楊合もあります。また、NK細胞を活性化するとされるβグルカン(べータグルカン)や、フコイダン、ω3脂肪酸(オメガ3脂肪酸)などのサプリメントをおすすめすることもあります。

PAFE:免疫療法について、これからの課題や展望を聞かせてください。

南先生:免疫療法は、リンパ球の培養や品質管理の面で高度な技術が必要とされ、なかなか一般的に広がりにくいのが現状です。ガイドラインを作成し、より多くの動物病院で治 療が受けられるシステムを作っていくことが課題になるでしょう。
 がん治療では、たとえ完治は難しくても、ご家族の方が「自分で選び、取り組んでみて よかった」と思われるような方法を選択していけるよう、獣医師とご家族が十分に相談していくことが望ましく思われます。免疫療法が一般的になれば、獣医師やご家族の選択肢がそれだけ増えるということ。選択肢は多ければ多いほどいいと思います。

 
 
閉じる
 
Copyright(C)2007 anicom pafe.All rights reserved.